典型的な営業アウトソーシング
A氏は、まるで人格のブラックホールのように、自分のしたことを吸収してしまって、跳ね返ってくるものがない。
そして、現れてくるのは「あわれな被害者像としての建築士」である。
グランドステージ池上で圧力をかけられたのが偽装を始めるきっかけでなかったとしても、ゼネコンからのコストダウンの圧力が陰に陽に繰り返されたことが、偽装に向かわせた原因のひとつではあるだろう。
だが、A氏の転機がいつどんな状況であったかは不明のままだ。
圧力をかけられていないにもかかわらず偽装してしまったのは、A氏に「建築士としての主体」がないために、仕事の区別がつかなくなったからではないか。
ディベロッパーの社長が構造設計士と面識がないというのは、不自然な話ではない。
しかし、HのO社長の場合、たとえ直接の面識がなくても、A秀次元建築士のことはよく知っていたと思われる。
衆院国土交通委員会の参考人質疑で、元請設計を担当したSのI社長は次のように述べている。
「O社長から優秀な構造設計士がK建設にいるので使うようにといわれた」。
ただし、具体的な名前は出なかったという。
O社長が優秀だといっている建築士はだれであろうか。
S建築研究所、S建築都市設計事務所、下河辺建築設計事務所らは、A山田第1部耐震偽装マンションは元建築士を使うようにHから指示を受けたことを認めたという。
このうち1人は常務からの指示と説明。
これはに国土交通省が行った聴聞で明らかにされたという。
ビジネスホテルの開業指導をしていた経営コンサルタント会社、総合経営研究所のU健所長は、「Aが構造計算に入っていることは全然知らなかった」と、四月比日の証人喚問で述べ、偽装への関与を強く否定した。
しかし、総研のコンサルティング先の企業で組織する「SG会」と呼ばれる会員組織のトップはU所長、ナンバー2は平成設計幹部、設計の欄には「A設計」の名前もある。
U所長が、面識はなくてもA元建築士を知らないというのは、疑問である。
総研のU所長は、A元建築士と名刺交換もしたことはないといった。
A元建築士は、「すれ違うようにお会いしたことはあるが、名刺交換はない。
ただ、私が総研のセミナーでコストダウンの話をしたことはある」と述べ、総研との関係が深いことを閃年比日の証人喚問で明らかにした。
通常、構造設計者が施主のもとへ行くことはない。
たまたま1件だけかかわったというのであれば、互いに知らないというケースのほうが多い。
半分は構造計算書を改竄しているが、改竄していないものもある。
A元建築士が元請で構造設計した千葉県習志野市の鉄筋コンクリート造りの外壁について、A氏自身の担当分では偽造はなかったことが確認されている。
しかし、くいの部分を担当した別会社の入力ミスがあり、強度不足になってしまった。
くい部分を担当したのは静岡県内のメーカーで、地震の強さを表す指標である「N値」の入力をミスしたという。
擁壁全体の構造設計はA元建築士が請け負っていた。
千葉県は「A元建築士はくいの部分についても精査する義務があった」としている。
構造設計の元請であっても、外注のミスは見逃している。
これが「優秀」といわれる構造設計者A氏の仕事ぶりである。
では、構造設計能力は関係者の間でどう評価されていたか。
ホテルの設計が専門でK建設の子会社である平成設計は、A元建築士が担当したことになっているホテルのうち、高い耐震性が求められるときは大手設計会社に下請に出したといっている。
同社は構造計算をA氏に7件依頼した。
このうち、書類上はA氏だが名前が出てこない大手設計会社が計算した建物が2件あった。
平成設計は「振動の解析などが必要で、A事務所では難しくてできない」と大手設計会社に説明したという。
平成設計から「鉄筋など材料の使用量が多いので、減らせないか」といわれたこともあったが、大手設計会社はとりあわなかったという。
平成設計はA新聞の取材に「下請けに出したのは特殊技術ができないというA元建築士の能力の問題」と説明している。
平成設計は、特殊技術はないのに、A元建築士に集中して構造設計を依頼していたのである。
普通、マンションの構造設計には1棟当たり3週間から5週間くらいかかる。
だから年に6件程度がせいぜいだと、構造設計の専門家はいう。
A元建築士が構造計算に関与した建物は何年以降で207棟になる。
これを単純に平均すると、年間で回・9棟になる。
通常考えられない件数である。
これが可能なのは、A元建築士がいわゆる代願建築士だからである。
申請代行だけ行う場合もあるが、設計料も含まれていることが多い。
ただし、設計といっても主体的に構造設計を行うわけではない。
単に建築確認申請が通るための構造設計の計算をしているだけである。
だから、図面がA氏の申請したものと合わないことが発生する。
大田区が建築確認した「グランドステージ池上」では、区が再計算に使った構造計算書とは別の構造計算書があった。
再計算したのは設計事務所から取り寄せたもの。
別の計算書はHが持参したものだ。
横浜市のコンアルマーディオ横潰鶴見でも、建築確認時の資料で計算した耐震強度と、竣工図を元に再計算した強度が違っていた。
これらは、建築確認申請用の構造計算書に沿っていない別の図面で施工が行われたことを示している。
A元建築士は建築確認申請を通すための代顕であるため、実際の施工では、それとは別の設計図が用意されている場合があった。
構造設計の専門家は、マンション1棟当たり150万円くらいの報酬はほしいところだという。
なぜ、このような金額で仕事を受けるかというと、代願で仕事をしている建築士には、通常の設計の依頼がなかなかこないからだ。
不動産の特徴は、2つとして同じものがないことだ。
しかし、その特殊性を無視して機械的に構造設計をやっていたとしたら、たくさんの構造設計を手がけることが可能になる。
1件当たりは安くても、数をこなすことでA元建築士は収入を確保していった。
主犯はだれかわからないこの国の仕組みの盲点をついたのが、今回の建築確認偽造、耐震強度偽装事件での主役たちの姿勢である。
それは衆院国土交通委員会での参考人質疑で「神聖なる公文書に対して、私どもは全く疑うことなく着工しただけです」、「確認申請をしてお墨付きをもらって仕事をしています。
図面どおりやるのが使命」。
見破られることはないと安心して、大胆になっていった。
これはA元建築士だけではない。
民主党の衆院議員は藤沢市のグランドステージ藤沢で必要以上に水で薄められた生コンクリート、いわゆる「シャブコン」が使用された疑いがあることを指摘した。
超短期化工法だけに飽き足らず、K建設は古典的な手抜き工事であるシャブコンにまで手を出していた可能性が出てきている。
この建物は、耐震強度は0・日まで下がってしまっている。
コストダウンを極限まで追求していたHは、設計発注の際に関連会社「A」をいったん経由する仕組みを作った。
この代表取締役は、千葉県に住む女性とO社長の実弟が共同で務めていた。
関係者は「事業活動と呼べる実体はない」と指摘している。
Hは設計料を坪当たりいくらという金がA社に入る仕組みだった。
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